虫歯の原因となる菌の中で、最も虫歯への影響力が大きいのは「ミュ―タンス菌」だと考えられている。この感染を防ぐ一番のチャンスが、生後すぐに訪れることをご存知だろうか。そこで今回、子どもの歯の健康・歯並びのために生後すぐに気をつけておきたいことを、歯科医師の倉治ななえ先生にうかがった。 乳歯が生えそろうまでの期間が大事 生まれたばかりの赤ちゃんはミュ―タンス菌をもっていないにも関わらず、日本人の約9割はミュ―タンス菌に感染しているという。この感染は、母親から子どもにうつる「母子伝播(でんぱ)」の割合が高い。つまり、これを防げるかどうかで、子どもの歯の環境が変わってくると言っても過言ではない。 ミュ―タンス菌はどのようにして虫歯をつくるのか。まず、ミュ―タンス菌は口腔内でグルカンというネバネバした物質を生成し、歯の表面に張り付いて歯垢(プラーク)を形成する。このミュ―タンス菌由来のプラークは非水溶性のため、歯ブラシでブラッシングをしても落ちにくいという特徴がある。プラークの中でミュータンス菌は糖分をエサとして「酸」を発生、その「酸」によって歯のエナメル質が溶け、表面から深部へと侵食し、虫歯になる。 ミュ―タンス菌に一度感染すると、根絶させることは難しい。だが、ミュ―タンス菌の感染年齢が遅いほど、虫歯リスクは低くなると倉治先生は言う。「成長とともに感染率は減り、大人になればほぼ感染しません。目安としては子どもが4歳になるまで。その中でも特に、歯科医療機器乳歯が生えそろうまでの1歳6カ月~2歳7カ月は感染を防ぐ大切な時だと思ってください」(倉治先生)。 特に子どもと一番接する機会が多いのはお母さんなので、お母さん自身のミュータンス菌レベルを減らすことも大切になる。ミュータンス菌を減らすため、「フッ素が配合された歯磨き粉を使う」「キシリトールをかむ」「歯をクリーニングする」等は有効だ。 なお、ミュ―タンス菌の感染率が高いのは、日本のほかにタイやベトナムなどアジア圏などでみられる傾向だという。これは、ミュ―タンス菌が周囲の大人の唾液を通じて感染するからであり、子どもが食べやすいように食べ物をかみ砕いて与えるなどの習慣が、アジア圏に共通して言えるからではないか、と倉治先生は考えている。そのほか、子どもと同じ箸やスプーンを使って食べることも感染のリスクとなりうる。 あごを鍛えて歯並びを整える 出産後すぐにできる歯の対策として、授乳は子どもの歯にとって大切、と倉治先生は指摘している。母乳がいい、という意味ではなく、乳房から自分の力で飲み込む行為が、子どもの歯並びに影響を与えるからだ。 「母親のおっぱいから母乳を飲むために、赤ちゃんはかむ・ベロを引き込む・筋肉を働かせることを自然と行います。そうすることであごの発育が促されます。あごの発育が悪いと歯並びが悪くなるだけではなく、かみ合わせが悪くなり、虫歯や歯周病等の歯のトラブルにもつながります。離乳食を食べる時に『しっかりあごを使って』と言っても、まだ言葉を理解できない内はなかなかコミュニケーションができないでしょう。ですが、母乳で育っていると自然とあごの使い方を身につけられるものです」(倉治先生)。 実際、さまざまな理由で授乳ができないこともあるだろう。その場合は、母乳に近いタイプの人工乳首を使うことを推奨している。近年の人工乳首には、形状や硬さ、大きさなどが異なるさまざまなタイプがある。飲みやすさだけではなく、より授乳と近い環境でミルクが飲める人工乳首を選ぶことが大切になる。
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