親知らずは抜いたほうがいい? そのままがいい?? – 歯科医に聞く
「智歯(ちし)」という言葉を聞いて、何のことを意味しているかわかる人は少ないはずだ。だが、「親知らず」という言葉ならば聞いたことがある人も多数いるだろう。本人や親が気づかないうちに、口の奥にひっそりと生えてくるこの歯には、実はさまざまな秘密が隠されている。 本稿では、矯正歯科クリニック院長の今村美穂医師の解説を基に、親知らずの特徴や生えていることのメリット・デメリットなどを紹介していこう。 正式な名称は第三大臼歯 親知らずは、大人の奥歯である大臼歯(だいきゅうし)の中で最も後ろに位置し、第三大臼歯が正式な名称。永久歯の中で最後に発育する点が特徴だ。通常、永久歯は15歳前後で生えそろうと言われているが、親知らずは10代後半から20代前半にかけて生えてくる。 一般的に、親知らずは上あごの左右2本と下あごの左右2本の計4本がある。ただ、中には親知らずの無い人や、必ずしも4本そろっていない人もいるなど、個人差がある。また、生え方も一定ではない。親知らずの生えてくる場所が不足していたり、もしくは萌出方向(生える方向)が通常と異なったりするという理由から、あごの骨の中に埋まった状態のものや傾きながら生えているものもみられる。 親知らずがもたらす疾病 いびつな形で生えてくるケースが多いだけに、親知らずはさまざまな疾病を招くリスクもある。 例えば、「智歯周囲炎」(ちししゅういえん)と呼ばれる疾患は、親知らずの一部に歯茎がかぶったままの不潔な状態が長く続いた結果、歯茎の炎症が引き起こされて発症する。智歯周囲炎が周囲の軟組織やあごの骨にまで広がると、顔が腫れて「顔でか」に見られてしまったり、口が開きにくくなったりする可能性がある。 手前の歯と段差があるなどすると十分な歯磨きができないため、食べかすが残りやすくなり歯垢(しこう)も増える。その結果、虫歯や歯周病、さらには歯周病原菌が原因となる口臭などの「お口のトラブル」を招くことにもなりうる。 親知らずを抜いた方がよいケース 基本的には、日常生活に支障がなければ無理をして親知らずを取り除く必要はない。だが、場合によっては抜歯を検討した方がよい。今村医師は、「抜くタイミングは親知らずの状況次第です」と解説する。以下に抜歯を考えるタイミングについてまとめた。 ■智歯周囲炎などによって、痛みを伴う……「歯茎がはれ、特に疲労したときに症状が発症するような場合は、一時的に投薬で症状を抑えることは可能です。ただ、数回繰り返して悪化するようならば、抜歯を考える時期です。そのまま放置すると炎症部分が拡大し、痛みなどの症状が悪化して抜歯も困難になります」。 ■矯正治療後……「親知らずがあると、奥から前に生えてくる力がかかり、前歯の歯並びが悪くなるケースがあります。歯の矯正治療を終えた後、親知らずのせいでその矯正が後戻りしてしまうことを懸念されて、早期に抜歯するケースもあります。この場合、親知らずがレントゲンで確認される中学生頃から成人までを、矯正治療と並行して考慮します」。歯科用ダイヤモンドバー ■虫歯のリスクがある……「親知らずが生えてきた後、虫歯になっている可能性が高い場合は、抜歯を考慮していただくことがあります。親知らずは一番奥の歯で歯ブラシが届きにくく、丁寧に磨く必要があるため、虫歯になるリスクも高くなってしまいます。そして虫歯になると、治療器具が届きにくくてその後の手入れも困難です」。 近年は術後の腫れなどの症状を見越して、患者自身が適切な時期を考慮して入院。全身麻酔で抜歯をするというケースも増えているという。 他の奥歯のスペアになり、再生医療にも利用可能 さまざまな病気を引き起こす可能性があるため、何かと「悪者」のイメージが付きまとうものの、親知らずがもたらすメリットもあるのだ。 ■親知らずは他の奥歯のスペアとなる……親知らずよりも手前にある大臼歯を、虫歯などのせいで抜かなければならなくなった場合、その部位に親知らずを移植できれば元通りかめる状態になる。 「万が一、永久歯の臼歯部を喪失した場合、その抜歯部位に親知らずを再植する治療方法があります。形態やその状況での条件をクリアする必要はありますが、隣在歯の歯牙を削って作成するブリッジやインプラントなどの代用法として再植という治療選択があります」(今村医師)。 ■再生医療に利用できる可能性がある……歯科治療などで抜いた歯から採取できる歯髄(歯の神経)細胞は、乳歯・永久歯ともに極めて増殖力が高いという特徴がある。すなわち、短期間の培養で多くの細胞を得られるメリッ トがある。さらに、歯髄細胞は歯という強固な組織によって、紫外線などの外的刺激に保護されている。そのため、歯髄細胞はいつまでも若々しい状態で保存されているのだと考えられている。これらの条件から、歯髄細胞を用いて良質なiPS細胞を作れ、 将来の再生医療に利用できることが期待できるとされている。 「親知らず=抜いた方がよい」と固定観念を持っている人がいるなど、一般的に負の側面にスポットが当たりやすい親知らず。その一方で、使い方次第では、本人や人類にとって大きな恩恵をもたらしてくれる可能性を秘めているのも事実だ。 そのメリット・デメリットをきちんと知っておいたうえで、もしも抜歯をしたい場合は、専門の歯科医師に十分に相談してから決めるようにしよう。
舌のこけを磨くのはNO! 歯科医に聞く正しい口臭対策とは?
「このごろ疲れがとれないのだけど、なんだか口臭がするみたい」、「このニオイは昨日の飲み過ぎのせい!?」、とどめは、「アンタの口、クサイよ」と誰かに言われて愕然(がくぜん)……。 そこで、歯学博士で専門は口腔(こうくう)(こうくう)衛生、かつ口臭外来がある江上歯科(大阪市北区)院長の江上一郎先生に、「正しい口臭対策」についてお話をうかがいました。 ■口臭の原因はだ液が減ること ――口臭の原因として考えられることを教えてください。 江上先生 「だ液が少なくなって起こることが多いです。だ液が減るとなぜ口臭になるかというのが大事なポイントですが、だ液は、食べ物を消化して食べカスを洗い流し、また細菌が増えるのを防ぐ役割があります。口の中の粘膜を守り、清潔に保つわけですね。歯科診療ユニット そのだ液が減ると、当然、消化する力や抗菌力が下がってしまいます。すると、口の中に残った食べカスが菌の働きで発酵し、オナラや納豆のような臭気を発します。 また、だ液が減少すると口の中のさまざまな細菌が繁殖して、虫歯になる、歯周病になるなど、口の中の病気に直結していくことになります。 そして、これらの症状も、口臭の原因になります」 ――つまり、だ液の減少が引き金となって、口の中にいろいろな弊害をもたらすということですね。 江上先生 「そうです。うちのクリニックの口臭外来を訪れる人の8割は、『ドライマウス』という症状があります。『口腔(こうくう)乾燥症(こうくうかんそうしょう)』とも言いますが、その名のとおり、口の中が渇くという症状です。口の中が渇くのはだ液が出ていないからなので、口臭につながっていきます」 ■ドライマウスの原因は、ストレスや緊張 ――ドライマウスの原因はどこにあるのでしょうか。 江上先生 「緊張すると口の中が渇くでしょう。だ液の分泌というのは自律神経が担っているのですが、この神経は、不規則な生活、不摂生、ストレス、緊張、精神的不安があるとバランスを崩して、体の機能に影響を与えます。だ液はその影響を受けやすいんです。 ですので、ドライマウスの予防としては、規則正しい生活を送り、ストレスを解消してゆったりとした時間を持って自然にだ液を出させることが必要です。睡眠時間は6時間以上をキープしてぐっすり眠る習慣をつけ、自律神経のバランスを整えたいものです。 健康な人でも睡眠中はだ液が減ります。だから、朝起きたときのだ液量は激減していて細菌がいっぱい、口の中がねばねばしています。 体が活動し始めると、だ液をつくるだ液腺が刺激され、だ液がたくさん分泌されてきます。 あと、抗うつ剤、鎮痛剤、降圧剤などの薬の服用は、体中の生理的分泌を抑制する作用があります。それで、だ液の分泌も抑えられて、口が渇く原因になります」 ■だ液の分泌を促すには、水を飲む ――自分で、だ液の分泌を促す方法や、ドライマウスの対策はありますか。 江上先生 「先ほどの自律神経を整えることと並行して、水をたっぷりと飲んでください。口臭を感じる人やドライマウスの人の場合、全身が水分不足になっていることが多いんです。体に水分を与えることが大事なので、いつも携行して飲んでください。 ただし、コーヒーや紅茶、緑茶などのカフェインやポリフェノールなどが入ったし好飲料は避けてください。利尿作用があるので、せっかくとった水分が、だ液分泌にまわらず、尿になって出てしまいます ――タバコやお酒はだ液の分泌に影響しますか。 江上先生 「強く影響します。タバコの成分であるニコチンは、末梢(まっしょう)血管を収縮させる作用がありますので、だ液腺の活動を抑え、だ液の分泌を減少させます。さらに、タバコのニオイは口臭に直結します。お酒は、カフェイン入りの飲料と同じで強い利尿作用がありますから、体から水分を失ってしまうんです。禁煙、節酒は大切です」 ――食生活でほかに気を付けることはありますか。 江上先生 「とにかくよくかんで食べてください。よくかむ事で、だ液腺周囲の筋肉が活動し、だ液腺を伸ばしたり縮めたりという物理的刺激を与えます。あまりかまずに飲み込んでばかりいるとだ液腺が活発にならず、だ液の量は減少します。 それに、梅干しやレモン、酢の物など酸っぱくて唾液(だえき)の分泌を促しそうな食べ物を積極的にとり、香辛料など刺激の強いものや口の中の粘膜にひっつきやすいクッキーなどは控えるようにしましょう また、あごを上下左右に動かす運動を心がけて、キシリトールやシュガーレスのガムをかむ習慣をつけるのもいい方法だと思います」 ■舌のこけ(こけ)は磨いてはいけない ――口臭の原因のひとつに、舌苔(ぜったい)があると聞きますが、どうでしょうか。 江上先生 「口臭の原因になります。舌苔(ぜったい)とは、舌表面についたこけ状の白っぽいチーズのようなものです。実体は、食べカスや舌表皮や口腔(こうくう)粘膜などのタンパク質が、細菌によって分解されたものが付着したものです。…
これぞ「究極の歯の着色汚れのケア方法」? 歯科衛生士が教える歯みがき方法
毎日鏡を見ながら、「なんか歯の着色汚れが気になる……」と悩んでいる人も多いだろう。いざ歯科医でホワイトニングをしてもらっても、歯は毎日汚れていくため、日々の予防が大切となる。そこで、ライオンのオーラルケアマイスターで歯科衛生士でもある河村有美子さんに、歯の汚れをケアするための効果的な歯みがきを聞いてみた。 「お口ケアのプロ」が教える効果的な歯のみがき方とは 歯みがきの基本+歯みがき剤でステインを防ぐ 対策1 毛先を歯面にきちんと当てる 「歯と歯ぐきの境目、歯と歯の間にきちんとハブラシの毛先を当てること。みがきにくい奥歯にもきちんと届くように心がけましょう」 対策2 軽い力で磨く 「ハブラシの毛先が広がらない程度で歯を磨きましょう。ハブラシにかかる圧は、重さでいえば、150~200g程度です。軽い力でみがきましょう」 対策3 ブラシを小刻みに動かす 「一般の方の歯みがきを見ていると、大きくハブラシを動かしている方も多く、その場合だと歯と歯の間にハブラシが届かず、細かい所の汚れが取れないのです。ハブラシを動かす幅は5~10mmを目安にして、1本~2本ずつ、20回以上動かしてみがきましょう」 対策4 歯みがき剤を使うこと 「ステインや歯垢の付着を防ぐためには、基本的に研磨剤入りの歯みがき剤を使うとよいでしょう。歯みがき剤には目的に応じ、「むし歯予防」「歯周病予防」「美白用」「知覚過敏用」などの商品があります。ステインの付着を防ぎたいのであれば、美白用の歯みがき剤を選ぶとステインを落とす成分が含まれており、ステインを落としやすくなるのでお勧めです」口腔洗浄器 ちなみに、歯と歯の間はハブラシのみの清掃では不十分で、着色が付きやすいだけではなく、歯垢(プラーク)が残りやすいため、むし歯や歯周病が起きやすい。そのため、歯間ブラシやデンタルフロスを使うのがいいとのこと。歯と歯の間のすき間の大きさに応じて選択し、迷った場合には、歯科医院で相談するようにしよう。 歯みがきは毎日行っていることだけに、どうしても惰性になりがちだ。ただ、少し気をつけるだけで見違えるような白い歯になれるという。ぜひこの4つのテクニックを駆使して、健康的な白い歯を手に入れてもらいたい。
妊婦が虫歯になりやすいってホント!? プレママが気をつけたい「むし歯対策」5つのポイント
「一子生むと一歯失う」という言葉を聞いたことがありますか? 「女性は妊娠すると、お腹の赤ちゃんに歯のカルシウムを取られるから歯がもろくなる……。」と言われてきました。 でも実はこれ、迷信なのです! ではどうして妊婦さんは「むし歯になりやすい」、と言われるのでしょうか? 今回はママ歯科医師である筆者が、プレママのむし歯の真相と対策について解説します。 ■ 「妊娠中、むし歯になりやすい」3つの理由 妊婦さんがむし歯になりやすい理由は、いくつか考えられます。 (1)「胃が圧迫されるから少量ずつたべたい…」食事の回数が増える 妊娠中は食べづわりでちょこちょこ食べたり、妊娠後期は胃が圧迫されて少量ずつ食べたりと、食事スタイルが変化します。 食事の回数が増えると、口の中は酸性から中性に戻る暇がなく、歯が溶けやすい環境にさらされます。 (2)「口に入れるだけで吐き気…」つわりで歯みがきできない つわりで起き上がるのも辛い時期は、歯みがきが不十分になります。 筆者も、口の中に歯ブラシを入れただけで吐き気を感じた経験があります。 (3)ホルモンバランスの変化 妊娠中は、ホルモンバランスの関係で免疫力が低下しています。そのため、口の中で細菌が増えやすい状態なのです。 妊娠出産すると歯のカルシウムが減って歯が弱くなる、という事実はありません。そうではなく、上記のような妊娠中の特徴によって、むし歯や歯周病になりやすくなるのです。 ■今日からできる!プレママのむし歯対策 (1)歯磨きがつらい時はうがいを!つわりの期間を乗り切る工夫 つわりで歯みがきが辛い時期は、食べた後はうがいをしましょう。こまめに水を飲むのもよいでしょう。 筆者は朝と夜につわりがひどかったので、お昼の比較的吐き気の弱い時間帯に歯みがきするようにしていました。 歯磨き粉の味やフレーバーも刺激の少ないものを使ったり、辛いときは歯磨き粉を付けずに磨くのもよいでしょう。体調のよいタイミングを見つけて、うがいや歯みがきができるといいですね。 (2)歯の再石灰化を防ぐ!ガムでリフレッシュ 何か口に入れたいときは、砂糖を含まないガムを噛むとよいでしょう。キシリトール配合のものがオススメです。噛むことによって唾液の分泌を促し、歯の再石灰化に役立ちます。 気分もリフレッシュしますし、体重管理の面でも、ガムはお役立ちアイテムです。 (3)歯科健診票を活用して 母子健康手帳をもらったときに、歯科健診票(割引券)も配布されたら、ぜひ利用しましょう。 つわりで辛い時期は受診しづらいですが、体調が落ち着いたら、なるべく早めに健診を受けるとよいでしょう。 (4)むし歯は早めに治療 妊娠後期はお腹が大きくなり、歯の治療も難しくなります。妊娠中は歯が痛んでも服用できる薬が限られています。…
歯の汚れの代表格「ステイン」をきれいにケアする方法とは
笑顔を浮かべたときにこぼれた歯が真っ白だったら、その人の印象はグッと上がるだろう。そんな白い歯を得るための天敵となるのが「ステイン」と呼ばれる歯の着色汚れ。ステインはふだんの食事をしているだけで付着していくものだが、効率よく落とすにはどうすればいいのか。ライオンのオーラルケアマイスター・平野正徳さんと河村有美子さんにうかがってみた。 ライオンのオーラルケアマイスター・平野正徳さん(左)と河村有美子さん。白い歯が美しい 着色汚れを防ぐには 歯が汚れる原因は複数あるが、見た目に気になるステインはその代表格でコーヒーや紅茶、赤ワインなどの嗜好(しこう)品はステインが付きやすい。では、ステインを歯に付着させないようにするにはどんな心がけが大切なのだろうか。 「基本は歯みがきですね。付いた汚れは必ずその日のうちに取りましょう。汚れは時間がたつほど取りにくくなっていきます。また、その際には美白用の歯みがき剤を使うことを心がけましょう。美白用の歯みがき剤を使用するか否かで、汚れの取れ具合が大きく変わります。理想は食後にていねいに歯をみがくこと。それができない場合は、着色しやすい食品を食べた後、水で口をすすぐだけでもずいぶん違ってきます」(平野さん)。 ライオンから販売されている歯みがき関連商材 ホワイトニングは歯を白くできるが、まずは歯のクリーニング 歯科医院でも「歯垢・歯石除去」や「着色を取りたい」ということを伝えれば、汚れを取ってくれる。ところでここ数年、「ホワイトニング」という言葉が一般化してきたように感じるが、その実態はどういうものなのだろうか。 「ホワイトニングとは歯を漂白することで、歯科医院での処置が必要となります。美白用の歯みがき剤でのケアや歯科医院におけるクリーニング(歯石除去等)は、歯本来の色を保つまたは戻すことですが、ホワイトニングは歯の明度を上げることにより、歯を白くする方法です」(河村さん)。歯科ホワイトニング機器 まずは、美白用の歯みがき剤を使った日々の歯みがきで、ステインの付着を防ぐことが大切。それでも付着してしまった気になるステインがある人は、歯科医院でクリーニングすれば、本来の歯の白さを取り戻すことができる。それでも歯の汚れが気になるようだったら、歯科医に相談してみてはいかがろうか。
口臭が原因で口腔組織が溶ける! 歯周病で口内には青酸ガス級の”毒物”も!!
自分や他人を不快にさせるものの一つに「体臭」が挙げられる。ただ、面と向かって他人に「ちょっと臭いがきついですよ」と伝えるのは気が引けるため、仕方なく我慢した経験がある人も多いに違いない。 そして、体臭の中でも特に気になるとされているものの一つが、口臭だろう。焼き肉やギョーザなど、臭いの強い物を食べた直後だけではなく、常に口が臭うようだと周囲とのコミュニケーションにも影響が出かねない。 そこで今回は、矯正歯科クリニック院長の今村美穂医師に、口臭の原因や対策、予防方法などについて伺った。 口臭のメカニズム 口臭の原因のほとんどは、舌苔(ぜったい)や歯周病など、何らかの「口のトラブル」にあるといわれている。はじめにそのメカニズムを見ていこう。 まず、口腔(こうくう)内の粘膜がはがれ落ちてきて、舌の上にたまっていく。粘膜のほかに食べかすや細菌のかすもたまってきて腐敗する。これが舌苔だ。これらの食べかすなどに含まれるたんぱく質が、口の中にいる細菌によって分解・発酵される過程でガスを出す。この独特の腐ったような臭いを出すガスが、口臭の素になる。つまり、舌苔が厚くたまっている人は、口臭をそれだけ出しやすい環境にあると言える。 このガスには、玉ねぎが腐ったような臭いの「メチルメルカプタン」、卵が腐ったような臭いの「硫化水素」、キャベツが腐ったような臭いの「ジメチルサルファイド」などの種類がある。 これらのガスは「揮発性硫黄化合物」と呼ばれ、強力な生体毒性がある。その毒性により歯周組織が破壊され、コラーゲンなどの合成を阻害することも知られている。 口臭はれっきとした毒ガス 歯周病原菌は、一般的にメチルメルカプタンを大量に産生すると言われている。そのため、歯周病の人も口臭がきつくなりやすいというわけだ。そして、口臭は人体にも有害だと今村医師は話す。 「口臭のもととなる歯周病原菌が出す毒素などは、歯周病をさらに悪化させますし、歯周病原菌は、硫化水素より悪臭の強いメチルメルカプタンを大量に産生します。歯周病のメチルメルカプタンは、『毒物及び劇物取締法』などの各種法律により毒物に指定されているほど、強力な毒性を持つ物質です。その毒性は青酸ガスに匹敵するとも、それ以上とも言われています。また、メチルメルカプタンは単に口臭原因物質としてのみならず、歯周病の病態を悪化させる因子である可能性が非常に高いです」。 そのほかにも、口臭はがんの原因である活性酸素を増やしたり、細胞核のDNAを切断したりすることも明らかになっている。たとえ微量だとしても、このような"毒ガス"が口の中に存在することは好ましくはないのは明白だ。 自分の口臭の判断方法 自分の息が臭わないか簡単にチェックする方法としては、「両手の中に息を出して臭う」「大きめのカップに息を吐いた後に雑誌などですぐにふたをし、1つもしくは2つほどの呼吸を置いてからかぐ」がある。また、「舌が白くなって(舌苔が厚くなって)いないかチェックする」などの方法もあるが、いずれも主観的なものなので、本当に調べたければ歯科医院などで検査してもらうのがよい。 口臭を防ぐには、普段からのケアが大切となってくる。一定の予防効果が期待でき、かつ自宅でも簡単にできる方法を紹介しよう。 対策1 水で体内を浄化する ニンニクやニラといった、悪臭を放つ食材が使われている焼き肉やギョーザなどを食べると、その後の口の臭いはかなり強烈となる。ニンニクなどに含まれる悪臭成分は、胃で消化された後に血液中に溶け込み、全身に運ばれる。ただ、水と一緒に排出されるため、たっぷりと水分を補給して排尿をするとよい。また、風呂やサウナなどで汗を出すことも効果的だ。 対策2 唾液を出すよう工夫する 唾液には、歯の汚れを落としたり、臭いの素であるガスを出す口腔内の細菌の増殖を防いだりする「自浄作用」がある。「朝起きたときに口臭を実感される方もいるかと思いますが、それは寝ている間に唾液量が減るためです。寝る前に何かを食べてそのまま歯を磨かずに寝るなど、細菌が洗い流されないような状況を作ってしまうと、口腔内で一時的に細菌数が増えて口臭がするというわけです」。頻繁にガムをかんだり、唾液が出るよう、よくかむ必要があるものを食事に取り入れたりするようにしよう。 対策3 舌や歯の間などを専用器具できちんと磨く 厚く積もった舌苔や歯周病が口臭の大半の原因ならば、舌苔や歯周病を防ぐための方法が、口臭対策になると言ってもいいだろう。舌苔は、歯ブラシよりも毛先が柔らかい専用の舌ブラシを使って、一日1回磨くとよい。「歯ブラシで磨くと、舌の表面にある舌乳頭という突起を傷つけ、出血する可能性があります」。一方、歯周病は歯と歯の間などにたまる歯垢(しこう)が原因で発症する。デンタルフロスや歯間ブラシなどを用いて、狭いすき間も丁寧に磨くようにしよう。 最新治療法はどんなものがある? 「自分でできるケアはどれも試したが、やはり気になる」「家族から『口が臭う』と言われた」などの悩みを抱えている人は、病院やクリニックで専門治療を受けるようにしよう。 最新の口臭治療法の一つに「3DS」と呼ばれるものがある。3DSは「デンタル・ドラッグ・デリバリー・システム」の略称。口臭の原因となるガスを出す細菌を殺すため、専用のマウスピースを用いて、薬を歯の表面や歯周ポケットの隅々まで浸透させる方法だ。歯医者で型どりをしてマウスピースを作り、歯磨きの後、マウスピースに口臭の原因菌を殺菌する薬を入れる。唾液に洗い流されないため、長時間の薬の効果が期待できるという。 「口臭は一日の中でかなり差が出てきます。食後などに口の中が悪い状態になっても、すぐに歯磨きなどで細菌を落として口臭が消えてくれれば大丈夫です。それで消えないようですと、病院やクリニックに行くことを検討してもいいかもしれません」。歯科用高圧蒸気滅菌器
3DSに期待大! 歯肉炎ケアのコツと最新治療法の正体
歯茎からのちょっとした出血のつもりが、そのままにしておくと静かに症状が進行して歯周炎などへとつながる歯肉炎。重篤な症状が出てしまう前にできるケアにはどのようなものがあるだろうか。 今回は、矯正歯科クリニック院長の今村美穂医師に、自宅で簡単にできる対策から歯科でできる最新の治療法まで、歯肉メンテナンスのノウハウを教えてもらった。 歯肉炎ケアの基本はきちんとした歯磨き 歯磨き時に血が出てきてしまったので、歯茎を傷つけないためにもそれからしばらくは歯磨きを控えめにした経験はないだろうか。実は歯肉炎の度にこのような"対症療法"に終始してしまっては、全く意味がないと今村医師は話す。 「血が出てしまう原因を知って、それに対応した歯磨きをしていかなければなりません。ご自分にあった歯磨きスタイルを作って、それで磨き残しがないかどうか歯科医院でチェックしてもらうといいと思います。そうやって確立したスタイルを励行していただくのが一番です」。 歯肉炎を歯周炎へと悪化させないためにも、まずは歯科医院で血が出る原因を究明し、それから自分に合った歯磨き方法を指南してもらうことが重要だ。その際、よく磨けるように電動歯ブラシやフロス、洗口剤などを活用するのもよいが、やはり使いこなせないと意味がない。 「電動歯ブラシについては、すごくいい製品を使っている方でも、ヘッドの大きさなどから奥歯にちゃんと届いておらず、きれいに磨けていない患者さんもいらっしゃいました。機器は高度化しているんですが、使いこなせている方は意外と少ないと思います」と今村医師。 洗口剤も殺菌効果は高いが、すぐに口腔内環境は元通りになってしまう。食後すぐに外回りや会議があり、歯磨きまで時間が空いてしまうときなどの「つなぎ役」として活用するといいだろう。 歯磨き粉の"3刀流"も有効 磨き残しがないかを可視化しやすくするため、歯の汚れに色を付けるという方法もある。実際、既に日本でも汚れに色をつける歯磨き粉が市販されているという。 また歯磨き粉は、プラークコントロールを目的としたもの、歯肉炎の細菌などに対する殺菌効果のあるもの、虫歯に対してよい効果のあるものなど、いろいろな種類のものが今は販売されている。 そこで、「朝はプラークコントロール用」「昼は虫歯対策用」「夜は歯肉炎対策用」などと使い分けると、「口のトータルケア」が期待できそうだ。ただ、うがいをしすぎてしまってはせっかくの高濃度の薬効成分も口腔内に定着しづらい。口のゆすぎすぎには注意しよう。 歯磨きなどのケア以外でも、歯肉のために積極的に摂取したい栄養素がある。それは、オレンジやレモンといったフルーツなどに多く含まれているビタミンCだ。 「ビタミンCはお肌のためにサプリなどで毎日摂(と)っていらっしゃる方も多いですが、歯肉にもとてもいいものです。ビタミンCは血行の循環をよくしてくれるので、炎症があった歯肉の治癒を促進することが期待できます。また、ビタミンCはコラーゲンを増やしてくれますが、コラーゲンがあれば歯肉の修復がより早くなります」。 歯肉炎対策以外にも使える3DS 手軽にできるホームケア術もいいが、いざというときはやはり医師にきちんとした治療をしてもらう必要がある。 歯肉炎治療は、炎症部分の歯石やプラークを取り除いたうえで、殺菌効果のあるものを入れて炎症を治めていくという方法がスタンダードだ。だが一度改善しても、歯並びの問題などから再発してしまうケースも少なくない。 そのようなケースに有効的な方法として注目されているのが、日本ではまだあまり知られていない「3DS(Dental Drug Delivery System)」だ。 「3DSは、マウスピースを使って薬剤を定着させる方法です。薬剤が浸透する時間を設けることで、口腔内の環境をよくしていくことができます。例えば、唾液量が減ってしまう睡眠中に、マウスピースを入れて寝ていただくことで清浄効果を高められます」。 この専用マウスピースは、歯科医院などで短時間で作成可能。自分の歯に合わせて作るものなので、一度作ってしまえば歯科医院で専用の薬剤を買い足すだけで長く使えるメリットも。歯科医療機器 耐久性にも優れ、厚さも自分でオーダー時に調整できる。例えば、いつも歯を食いしばったり、歯ぎしりが強かったりする人の場合、素材をやや厚めにできる。そういったクセがない人の場合、1mm以下のもので対応できるとのこと。 さらには歯肉炎対策だけでなく、薬剤を変えることでホームホワイトニングなど別の用途にも使える。オーラルケアの一環として、1つ作っておくのもよいのではないだろうか。
歯科による歯石除去の方法と自分でできるホームケア術を学ぶ
毎日しっかりケアしているつもりでも、いつの間にかできてしまっている歯石。歯周炎や口臭の原因にもなるし、一度除去してもすぐにまた歯に付着してしまう。 ならばできるだけ付着しないような策を講じる必要があるが、歯石を予防するための正しいオーラルケアとはどのようなものだろうか。また、付いてしまった歯石は、どのように落とすのが効率的なのだろうか。矯正歯科クリニックの今村美穂医師に、そのテクニックを教えてもらった。 歯石を予防するために家庭できること 歯石とは、歯の周りに付いてしまう石のようなもの。一度付着すると、そう簡単には落とせない。歯石ができないようにするには、どのようなケアを心がけるとよいのだろうか。 「歯石は唾液の中のミネラル成分と、プラーク(細菌の塊)や血液が結びついてできるものです。唾液は体や歯にとって欠かせませんが、プラークは歯磨きとデンタルフロスを正しく使えば落とすことができます。プラークを残さないブラッシングをマスターすることが歯石予防では重要となります」。 残念なことに、個人差はあるが歯ブラシのみの場合は約60%しかプラークを除去できないというデータがある。そこで、歯ブラシに加えてデンタルフロスを正しく併用すると、約80%にまでプラーク除去率が上がる。この「2割の差」を知っているかいないかで、さまざまな疾病リスクが低減できると言えるだろう。 また、歯みがきの際に歯茎から血が出てしまう人は、早急に出血の原因を特定したほうがよい。血液もプラーク同様、歯石の原因となるためだ。 「歯周炎などで歯茎や歯周ポケット内に出血があると、その血液と唾液のミネラル成分が結びついて黒い歯石になってしまいます。歯周ポケット(歯と歯茎の間の溝)内の出血は自分では気づきにくいですが、出血のない健康的な歯茎を維持することが歯石の予防になります」。歯科用エアーコンプレッサー 咀嚼も歯石予防になる また、歯の表面に傷があったり、ザラザラした状態になったりすると歯石が付きやすくなる。歯がツルツルした表面になるように美白用の歯みがき粉などを使うことは、歯石予防としても有効とのこと。さらに意外な方法では、「よくかんでよく飲み込むこと」も歯石を遠ざけるという。 「歯はかむことや食べ物と擦れることによって汚れやプラークが落ち、唾液による『自浄効果』が期待できます。歯並びなどにより、かみ合わせの相手がいない歯や機能していない歯は、歯の表面にプラークがつきやすくなるので注意が必要です」。 小さいころに親から「よくかんで食べなさい」と指導された人は多いと思うが、消化のためだけではなく歯のためにもよいことだったのだ。食事はしっかりと咀嚼(そしゃく)していただくようにしよう。
ホワイトニングの安全性と危険性【歯科情報】
ホワイトニングって歯を脆くする? 最近ではエステのように身近なものになってきた歯のホワイトニング、昔は歯を脱色するようなもので、かなり歯に負担がかかるというような事が言われていたようです。年配のドクターで僕の周りではチラホラとホワイトニングを患者に勧めたがらない方がいました。最近ではあまり『ホワイトニングは危険だ』なんて言う人は減ってきたかと思いますが、イギリスの医師で警鐘を鳴らす方がいるようです。 彼によりますと『インターネット上などで売られている、身元不明の販売会社が販売している歯のホワイトニングの液は極めて酸度の高い原料の物もあり、中にはプールの消毒に使われる二酸化塩素が使われている。これではエナメル質が脆くなってしまう』と、いうことらしいです。 この内容の記事はネットで知ったのですが、これはイギリスの話ですし身元不明の販売会社の場合です。日本は薬事法が厳しいですから、たぶん大丈夫だと思います。 ただただ不安を煽るような記事でどうかな・・・と思います。ホワイトニング機器 日本の歯科医院で使用されているホワイトニングの液は10%程度の過酸化尿素が多く使わせており、それは世界中で認められているので安全性は高いと思います。 しかし、ホワイトニングは適応してない方の場合、強い痛みを感じたりするかもしれないので、経験豊富なドクターに見てもらった方が安心かもしれません。ただエナメル質が脆くなることは無いと思います。
もしかしてウチの子歯並び悪い…?歯科医ママが教える「1~3歳向け年齢別歯並び」チェックポイント
卒園式や入園式といった時期は、子どもの写真を撮る機会が増えますよね。写真を見ていて、ふと気になるのが子どもの歯並び。「あれ、もしかしてうちの子、歯並び悪いのかしら?」なんて気になっているママもいらっしゃるかと思います。 でも、小さな子どもの歯並びは、一体どのようなタイミングで相談したらいいのか、よく分かりませんよね。 今回は、ママ歯科医である筆者が、“年齢別子どもの歯並びチェックポイント”についてお伝えします。 ■ 1~3歳の年齢別歯並びチェックポイント ・1歳 この時期で心配なのは、歯の本数です。前歯2本がくっついている癒合歯(ゆごうし)が生えてくることもあります。この場合、後に生え変わる永久歯も癒合するかどうかは、まだ分かりません。この時点ではくっついた箇所が、むし歯になりやすいので、気をつけましょう。 1歳半歯科健診では、むし歯や歯並び、咬み合わせのチェックを受けましょう。 ・2歳 2歳のお誕生日の頃は16本生えている子が多いです。2歳半頃から、1番奥の第2乳臼歯が生え始めてきます。奥歯が生えそろうまでは、咬み合わせは不安定なので、様子を見ていきます。 指しゃぶりやおしゃぶりで、前歯の出具合が気になる場合があります。おしゃぶりは2歳のお誕生日に卒業をオススメしています。指しゃぶりは、4歳頃まで様子を見ていきましょう。 ・3歳 乳歯が全部生えそろう時期。これまでよくわからなかった、歯並びや咬み合わせの異常も判明してきます。 歯と歯の間に隙間がなく、狭くてデコボコと並んでいる(叢生)場合は、噛みごたえのある食材を使ったり、よく噛んでから飲み込むようにしましょう。よく噛むことで、歯の生えている顎の骨の成長につながります。歯と歯の間に隙間があると、生え変わりもスムーズです。 ■歯医者さんに「歯並び」を相談するタイミングは? では、どんなときに咬み合わせや歯並びの相談をすればよいのでしょうか。 もちろん、心配な点があれば“いつでも”相談して大丈夫です。 3歳までの小さな子どもの歯並びは、まずは小児歯科でチェックしてもらい、必要があれば矯正歯科を紹介してもらうという流れがスムーズかと思います。赤ちゃんの頃から通い慣れた歯科医院で、むし歯のチェックとともに、小さな頃から咬み合わせも診てもらうと、子どもも慣れた環境なので、ママも相談しやすいかと思います。 次のような咬み合わせの場合は、ママが気づいた段階での受診をオススメします。 (1) 咬み合わせが逆の「反対咬合」(はんたいこうごう) 下顎が上顎よりも前に出ている状態です。歯の生える方向のせいなのか、顎の大きさの問題なのか、家族にも同じような咬み合わせの人がいるかどうかなど、背景に隠れている問題は様々です。小児歯科の専門医や矯正歯科の専門医で、様子を見ていてもいいのか、治療のタイミングなどを相談すると安心です。 (2) 下顎が横にずれた状態の「交叉咬合」(こうさこうごう) 片方の咬み合わせだけ上下の咬み合わせが逆になった状態です。この状態が続くと、顎の成長方向に影響が出る可能性や、顔の形が非対称になるおそれがあります。まずは、小児歯科の専門医や矯正歯科の専門医の診断を受けましょう。この咬み合わせの場合は、小児歯科では早めの治療をオススメしています。歯模型 いかがでしたか? 最近は、むし歯だけでなく、小さな子どもの歯並びや咬み合わせの相談が増えてきていると感じます。 咬み合わせや歯並びに少しでも不安を感じたら、まずはかかりつけ医に聞いてみましょう。そのためにも、歯が生えてきたら歯医者さんデビューして、定期的に歯並びや咬み合わせもチェックしてもらうと安心ですよ。