歯科の2大疾患は,う蝕(虫歯)と歯周病です。歯周病は,以前は歯槽膿漏(しそうのうろう)と呼ばれていた疾患です。歯科疾患実態調査によると,若年者のう蝕は減少傾向にありますが,逆に歯周病の罹患率は増加しています。

歯周病とは
歯周病は歯と歯肉(歯茎:歯ぐき)の境界にあるポケットと呼ばれる溝の中で歯周病原細菌(歯肉縁下プラーク)が増殖し,その細菌の感染によって炎症が生じて,発症・進行するものです。

初期の歯周病を歯肉炎,進行したものを歯周炎と呼び,歯周炎になるとさらにポケットが深くなり,病変が悪化します。

プラークの増加と嫌気性菌の増殖が主な病因
歯肉縁下プラーク中の細菌が歯周病の主な病因であることが明らかになったのは,ここ 30~40年間のこと。
その結果,歯周病の発症は歯肉縁下プラークの量が増えることに加え,プラークを構成する細菌の質が変化すること,つまりポケット内に空気を嫌う嫌気性菌が増殖することが明らかになりました。

歯肉縁下プラーク1ミリグラム中には1億から10億個の細菌が生息します。ポケットの中で細菌は浮遊状態で存在するのではなく,他の多くの細菌と凝集塊を作り,細菌が産生する糖に包まれてバイオフィルムと呼ばれる集塊(しゅうかい=かたまり)を形成します。

バイオフィルム中の細菌は白血球や抗体などの攻撃や抗生物質等からも防御され,歯周病が慢性化する要因になっています。

全身疾患への移行
また集塊のまま剥離すると,全身へと拡散して遠隔の臓器に傷害を与え,全身疾患の原因となることが明らかになってきました。

また近年,歯周病原細菌の菌体成分や代謝産物が直接的に歯周組織に傷害を与える直接作用以外に,「マイクロモーター歯科」宿主の免疫応答や代謝を撹乱し,過剰な免疫,生物学的反応を誘発して,組織傷害を導く間接作用が重要な病因であることが分かってきました。

自覚症状がないことで病状進行
歯周病は進行する過程でほとんど痛みを伴わないため,自覚症状が少なく,症状が出現したときには,非常に病状が進んでいる場合が少なくありません。

そのため,気付いた時には重度の歯周病で抜歯しなければならないケースが多々見られます。歯周病の治療は,以前は対症療法が主なものでした。対症療法というのは歯肉が腫れたら投薬したり切開を行い,歯石が沈着したら歯石を取るなどといったその場限りの治療法のことです。

しかし,歯周病の原因が除去されていないために,根本的な治療法にはなり得ませんでしたが,最近では歯周病の原因を除去する「原因除去療法」が主な治療法となり,歯周病の治療が一段と進歩していきました。 中でも重要なのは,歯科医や歯科衛生士による「歯ブラシ指導」と患者さんの口腔衛生に対する「意識を向上させる指導」です。

意識の向上がポイント
歯ブラシ指導は歯ブラシの,テクニックの指導のことですが,歯ブラシを“頑張ってやろう”いう意識の向上がなければ,正しい歯ブラシを毎日行うことはできません。

つまり,口腔内のプラークや歯石を単に取るのではなく,プラークの成り立ちや歯石が沈着する原因を患者さんに説明し,プラークや歯石が付かない口腔内環境を作り出すことが重要です。