歯科医に聞く。無痛治療の実際とは
歯科医院のホームページで「無痛治療を行っています」という文言をよく見かけます。あのギンギン削られてガンガン痛むことから解放される? と期待してしまいますが、無痛治療とは具体的にどのように行われるのでしょうか。本当に無痛なのでしょうか。
歯学博士で歯科・口腔衛生外科の江上歯科(大阪市北区)院長・江上一郎先生にお話を伺いました。生体情報モニタ
■麻酔、レーザー、薬、そして早期治療
「無痛治療とは、文字通り、痛みを感じないように治療する方法です。一般的に、次の方法がとられています」と江上先生。
1)麻酔による治療
どこの歯科でも行っている無痛治療法ですが、麻酔薬や麻酔の方法、技術は歯科医によります。
まず、歯ぐきにジェル状の「表面麻酔剤」を塗ってから、そこに注射針で「局所麻酔」を施します。
注射の針は極細です。かつては、刺すときにちくっと感じていましたがが、今はそれもまずありません。注射の方法も進化しています。麻酔液を、電動で少しずつゆっくり注入していく場合は、歯ぐきへの圧迫を最小限に抑え、少量で効率よい麻酔が可能です。費用は、保険適用です。
注射による麻酔がつらい、高血圧などで一般の麻酔では持病が悪化するなどという方には、「笑気吸入鎮静法」を行います。鼻から笑気ガス(医療用ガス)を吸い込むと、リラックス気分になって痛みへの恐怖心が緩和され、鎮痛効果もあります。数分で元の意識に戻ります。自費で、2,000円~3,000円です。
ほかに、麻酔医が静脈に少量の精神安定剤を投与する「静脈内鎮静法」や、全身麻酔という方法もあります。自費で、かつ、どこの歯科医院でも取り扱っているわけではありませんので、相談が必要です。
2)レーザーによる治療
患部にレーザーを照射して歯をはじく感覚で削ります。殺菌効果、止血効果もあり、化膿(かのう)している歯ぐきの切開など小外科処置を行うこともあります。
ただし、深い虫歯の治療は難しい、機械で削るよりもかなり時間を要するなど、デメリットもあります。どこの歯科医院にでもあるわけではなく、費用は自費のことが多いでしょう。
3)エアーアブレーションによる治療
「細かい粉末を、圧縮した空気で噴射して歯を削る装置」で治療します。進行したむし歯には適しません。どこの歯科医院にでもあるわけではなく、費用は自費のことが多いでしょう。
4)抗菌剤による治療
一時、薬を詰めるだけで歯を削る必要がない、という治療法が話題になりました。これは、3種の抗菌剤(細菌を死滅させる薬)を混ぜて詰める「3Mix(スリーミックス)法」と呼ばれる方法です。
歯を削らない、神経を抜かなくてよい可能性がありますが、取り扱っている歯科医院が少数であること、その安全性、有効性について証明したデータに乏しい、日本歯科保存学会は2009年3月時点では「現状では、保存領域の治療技術として容認することは難しい」という見解を発表しているという側面もあります。費用は保険適用外で、医院によって変動があるようです。
江上先生は、こうアドバイスを加えます。
「以上の方法が主ですが、一番の無痛治療は、むし歯の早期発見早期治療です。むし歯は、歯の表面のエナメル質が変色することから始まります。それに気付いた時点ですぐに治療をしておくと、エナメル質には神経が通っていませんから、削ったとしても痛みはありません。また、削る必要がないこともあり、時間も費用も最小限ですみます。
それに、痛みというのは心理面に大きく影響されます。信頼できる医師から、どのような治療をするのか、痛みはどの時点でどう感じそうなのかの説明を受けておくと、いきなり削られるよりも随分と心の負担が軽くなり、痛みも軽減するものです。
そのためには、医師に気を遣わずに、『自分は痛みに弱い』、『過去に痛い経験をした』など、あらかじめ相談するようにしてください。こういう心理面が重要になってきます」
「水がしみるようになれば、歯の神経がむし歯で浸食されていますから、治療に際して痛みが出てきます」と江上先生。どうやら、無痛治療のお世話になる前に歯科医へ急ぐことこそが無痛治療になるようです。