子どもの歯並びが気になる保護者は多く、噛み合わせのバランスが悪いと顎や肩に負担がかかる、集中力に影響するなどという懸念点もあるようだ。その一方で、特に受験期などは歯列矯正が子どもに与える不安も気になるところだ。

そこで、保護者を対象に子どもの歯の矯正治療に関する質問を募集したところ、歯科医選びや費用、治療期間などについて下記のような質問が多数寄せられた。

・転勤の可能性があるが、医院が変わってもスムーズに治療は継続できるのか(小2女子の保護者)

・中学受験を予定しているが、受験直前は通院間隔をあけることができるのか(小5男子の保護者)

・部活でスポーツをしているが、歯列矯正はスポーツ時も安全か(中1男子の保護者)

・タイミングをはずし高校生になった。今からでも間に合うか、女の子なので外見も気にしている(高1女子の保護者)

・留学を予定しているが、現地で医院を見つけ、検査を受けるのは難しい。日本で定期検査を受けることはできるのか(高1男子の保護者)。

これらの保護者の質問について、スーパースマイル国際矯正歯科の矯正歯科専門医、賀久浩生氏に聞いた。

◆歯科医院選びはコンサルテーションが大切

–まず、医院選びに関するところからお伺いします。医院選びの基準として保護者が頭に入れておくべきことを教えてください。

矯正治療は非常に複雑で、お子様の歯の状態や専門医それぞれのバッググラウンドによって治療方法が異なります。たとえば、永久歯が生えてくる前から段階的に治療を始めるほうがよいと考える専門医もいれば、永久歯が生え揃った状態で治療を行うことがよいと考える専門医もいます。

保護者の方々のスタンスとしては、コンサルテーション時にまず専門医の方々がどのような治療方法を勧めるのか、そしてそこにどのような理由があるのか、その治療方法と理由は子どもの成長段階や性格に合っているのかを見極めてほしいと思います。

–いつもお世話になっている歯科医院はあるが、矯正治療の場合は専門の医院を探すべきなのかを悩んでいらっしゃる方もいらっしゃいます。

まず、前提として矯正歯科専門医は矯正治療の分野においてほかの歯科医に比べ経験を積んでいるということがあります。矯正治療を掲げている一般歯科医院の場合は、矯正専門医が医院にいる日が限定されていることもあるので、そこを保護者の方々がどう考えるかだと思います。

たとえば、定期的な検診は専門医がいる時に通えば問題はありませんが、一般的なワイヤー・ブラケットの装置が外れるトラブルなどで緊急対応が必要な場合は、専門医以外の歯科医が対応することになるかもしれません。

その一方で、矯正歯科専門の医院に通うと、虫歯などといった矯正分野以外の治療は難しいことがあり、そのような場合は各分野の専門医を紹介することになります。専門医院を選ぶかどうかは、こういったメリット、デメリットを考慮した上で判断していただく必要があるかと思います。歯科矯正器具

–転勤の可能性がある保護者もおり、転勤後の医院で治療が継続できるかどうかを心配されています。

最初に治療を受けた医院で、担当医が独自に開発した技術で治療を受けるなどといった特殊なケースを除けば、カルテもありますし、転勤先で医院を変えてもあまり治療の継続は問題にならないと思います。

大切なのは、転勤の可能性などをコンサルテーション時に伝えることです。転勤の可能性があれば、継続が不可能な技術を使うこともありません。私の医院では、外国人の患者様や留学されるお子様をお持ちの方も多いので、お子様が海外に出た場合でも保護者の方々が心配なく対応できる環境を作っています。

たとえば、インビザラインといった透明なマウスピースを使った矯正治療方法は、歯の動きを想定して事前に複数のマウスピースを用意するため、海外留学をするお子様でも対応できる場合があります。全寮制の英国の学校に留学しているお子様のケースでは、約3か月に1度の帰国時だけ調整することで治療が可能となっています。

もちろん、お子様の歯の状態や医院によっては、インビザラインの利用が難しい場合もあります。そういった場合には、転勤の可能性などをコンサルテーション時に伝えることで、医師が変わっても継続できる技術を使った治療をしてもらうことができると思います。

◆治療期間や治療費について

–治療期間や通院頻度について教えてください。

治療期間は、お子様の歯の状態によって大きく異なりますので、一概に目安をお話することは難しいのが現状です。治療期間は、治療方法によっても異なりますし、通院頻度にも影響します。

さきほどお話したインビザラインでは、患者様ごとに設定した定期的な間隔(約10日~2週間毎)で、ご自身で新しいマウスピースに交換してもらうため、通院頻度を比較的柔軟に調整することができます。

–治療費についてはいかがでしょうか。追加費用を心配される保護者の方は非常に多いようです。

治療方法、治療期間、調整の頻度などによって各医院が価格を設定しているかと思います。私の医院では、お子様の歯の状態を見て、コンサルテーション時に治療方法を提案し、治療期間を提示します。治療費は治療期間に応じて設定しているため、治療に2年かかるといった場合は、治療期間が延長したり短縮しても当初想定した2年分の費用としています。

治療方法によって費用が異なる部分もあります。一般的なワイヤー・ブラケットの装置ではなく、歯の裏側に取付ける装置やインビザラインの場合、患者様それぞれの歯に合わせた治療器具・マウスピースを注文することになります。そういった場合は、一般的なワイヤー・ブラケットの治療費を上回ることもあるので、コンサルテーション時に確認することが必要です。また、毎回の調整ごとに費用が発生する医院の場合には、治療方法による違いとあわせて、想定の通院回数を確認し、事前に全体の治療費を把握できるとよいでしょう。

–小中学生時代に治療のタイミングを逃した場合、高校生になってからでも治療は可能でしょうか。また、治療時の外見を気にする年でもありますので、目立たない治療方法がありましたら教えてください。

まず、治療は可能ですのでご安心いただきたいと思います。大人になってから治療される患者様も多くいらっしゃいます。

治療時の外見を気にしていらっしゃるということですので、一般的なワイヤー・ブラケットをイメージしているのではないかと思うのですが、今では治療方法もさまざまです。

マウスピースの装置であれば、薄く透明で目立たず、治療中の外見も気になりません。装置を外して食事や歯磨きができるので、口腔衛生上、虫歯予防にも効果的な方法でしょう。

◆治療と学習・学校生活への影響

–受験期の治療を心配されている保護者の方々も多いようですが、受験直前だけ通院間隔を空けるようなことはできるのでしょうか。

受験期間中に通院間隔を空ける患者様は多いので、問題はありません。特に中学受験など、小さいお子様の受験の場合は、心配される保護者の方々も多いでしょう。コンサルテーション時に受験をする可能性や、間隔を空ける必要がある期間などを医師に伝えておくと、治療がスムーズにいくよう対応してもらえると思います。実際に当院でも、矯正治療を受けながら難しい受験を乗り越えたお子様がたくさんいらっしゃいます。

–部活でスポーツをすることの多いお子様など、特に注意することはありますか。

前歯がいわゆる出っ歯の状態だと、外傷リスクが高まるという論文もありますし、かみ合せの改善が体のバランスの改善につながります。現在では世界のトップアスリートたちも矯正治療を受ける時代ですので、スポーツをする上で矯正治療を進めたほうが良い場合も多くあります。

矯正治療中のスポーツについては、通常はあまり気にする必要はありません。ラグビーなど、マウスピースの着用が必要なスポーツを行っている場合は、治療中は歯が動いていますので、スポーツ用のマウスピースを随時新しい歯形に合わせる必要があります。体育の授業など、通常の学校生活においては、治療中の場合でもあまり意識する必要はないでしょう。