歯科医に聞く「食事がまずい」のはなぜ?
仕事が忙しくて睡眠不足が続くとき、いつもは大好きな食べ物でも、おいしいと感じないことがあります。味覚はだ液の分泌量に大きく関係していると聞きますが、だ液が体に与える影響や味覚の改善方法について、歯学博士で歯科・口腔衛生外科の江上歯科(大阪市北区)院長・江上一郎先生に詳しい話を聞きました。
■だ液に含まれる消化酵素が、食べ物のうまみを引き出す
――睡眠不足のとき、食事をおいしいと感じないのですが、口腔(こうくう。口の中)で何か変化が起こっているのでしょうか?
江上先生 だ液の分泌量が減っています。だ液の分泌量をコントロールするのは、自律神経の一つでリラックスをもたらす副交感神経です。疲労や睡眠不足、ストレス、緊張感が強いときなど、この副交感神経があまり働かなくなります。また、アルコールやタバコ、降圧剤などの薬の服用によってだ液の分泌量が一時的に減ることがあります。
慢性的にだ液の分泌が少ない人は「口腔乾燥症(ドライマウス)」や「シェーグレン症候群(涙やだ液の分泌に障害が起こる自己免疫疾患)」という病気の場合もあります。
――だ液の分泌量が減ると、なぜ食事をおいしいと感じなくなるのでしょうか?
江上先生 だ液には、食べ物を分解する消化酵素である「ペプシン」や「ラクターゼ」といった成分が含まれています。これらの消化酵素が食べ物の「うまみ成分」を引き出します。
また、うまみは舌の「味蕾(みらい)」と呼ばれる組織によって感じる仕組みになっています。
だ液の分泌が少なくなると消化酵素も減り、味蕾がうまく働かなかったり味蕾までうまみ成分が届かなかったりするため、味を感じにくくなるのです。
■ガムやあめ玉を食べて口を動かすことで、だ液を分泌させる
――だ液の分泌量が少ないと、味覚以外にどのような影響がありますか?
江上先生 だ液には口内の抗菌、消毒作用がありますので、分泌量が少ないと、むし歯や口臭、歯周病の原因となります。また、口内炎の直接の原因ではありませんが、抗菌作用が低下したりり、口の粘膜がスムーズに動かなくなって表面が荒れ、口内炎を起こしやすくなることがあります。
――どうすれば、だ液を増やすことができますか?(歯科診療ユニット)
江上先生 食べ物をよくかむことです。1回の食事で約500回、一つの食べ物を口に入れて飲み込むまでに平均20回ほどかむことが理想だと言われています。また、しっかり水分をとることも大切です。
――あめ玉やガムを食べることは効果がありますか?
江上先生 口を動かすことがだ液の分泌につながるので、ガムの方がより効果的でしょう。ガムは味がなくなっても捨てずにかみ続けてください。口腔では、異物を感じることでだ液が出るようになっているので、かみ疲れたときは舌の上に丸めて置いておくだけでだ液の分泌につながります。
あめ玉では、酸っぱいあめや、消炎作用のあるハッカタイプがいいでしょう。梅干しもお勧めです。
――歯磨きや舌の動きでも改善することは可能ですか?
江上先生 歯磨きは、磨いた後で口の中の水分を全部吐き出してしまうため、あまり効果がありません。舌を動かすのはいいと思います。
――どのような動きがよいでしょうか?
江上先生 口を少し開けて、舌でほおの内側を突きます。左右交互に繰り返してみてください。また、舌を前歯と唇の間に挟み、前歯の表側をなめることも、だ液腺を刺激することになり、だ液量が増えます。
――味を感じにくくなったときに試してみます。ありがとうございました。
だ液がヒトの体にとってそれほど重要な働きをしているとは――。体調によってだ液の量はデリケートに変化し、味覚やむし歯、口臭にまで影響するということです。だ液の出かたは健康のバロメーターであると意識したいものです。(ウォーターピック)