歯の「自己修復」を助ける素材が開発されたらしい
そんな発想から新たな素材の歯の詰め物が開発されました。研究者の話によれば、ゆくゆくはこれまで行なわれてきた根管治療がいらなくなるかもしれないそうです。
そもそも根管治療とは何ぞや?と疑問に思っている幸運な人たちのために、まずはその説明から始めましょう。虫歯を治療する際に歯医者さんは虫歯を削り、金やセラミック、コンポジットレジン(歯の色に彩色された詰め物)や、アマルガム(水銀、銀、銅、スズや時には亜鉛などの合金)などでできた詰め物で穴をふさぐことがあります。
しかしそういった詰め物は取れることがあり、そうなると神経や血管など歯の中心にある軟組織が感染して死んでしまいます。そして、歯は穏やかに眠ってくれるわけではありません。鈍い痛みから始まり、米GizmodoのOuellette記者がかつて「抑えがたい激情があふれ出るように」と表現したような痛みにすぐ変わります。
そうなると、歯を救うために根管治療が必要になるのです。流れとしては患者に麻酔をかけたら、歯科医は歯から神経組織と歯髄(血管など)を掻き出し、ガッタパーチャ(充填材)を詰めて全体にセメントを被せるというもので、軟組織が全部なくなることで痛みは治まります。しかし、その歯にはもはや血が流れておらず死んだ状態になります。そして本来の形を保つため、医療保険ではカバーされていませんが、ほとんどの歯科医は高価な磁器のクラウンを被せます。つまり根管治療とは痛みを伴いお金もかかるので、受けずに済むのなら受けたくない治療ともいえますね…。
今回の素材を開発したのは、ハーバード大学とノッティンガム大学の科学者チームの皆さん。彼らが開発した合成バイオマテリアルは、いわば再生型の詰め物。歯髄のなかの幹細胞の成長を刺激することで虫歯のダメージを修復できるかもしれないのです。それにしても歯が自らを修復するとは、なんと画期的な…! この素材が使われば、歯の詰め物の失敗率や根管治療そのもの数はグッと減ることになりそうです。歯模型
英国王立化学会が後援した今年のEmerging Technologies Competitionで、同チームがマテリアル部門の2位に輝いたのも納得ですね。