歯周病は、中年以降の日本人では80%がかかっている病気だ。初期は目立った症状がなく、ゆっくり進行するため、「静かな病気(サイレント・ディジーズ)」とも呼ばれ、日本人が歯を失う最も大きな原因となっている。

しかし安心してほしい。歯周病は正しい知識さえあれば防ぐことができる病気なのだ。それなのに、世の中には歯周病の専門家から見て、首をかしげたくなるような不正確な情報が蔓延(まんえん)しているという。

そこで、歯周病の原因・治療・予防についての研究や歯科医師の教育を行っている日本歯周病学会と、日本臨床歯周病学会が全面的に協力し、歯周病に関する“正しい”知識の普及を目的とした初の書籍、『日本人はこうして歯を失っていく 専門医が教える歯周病の怖さと正しい治し方』(朝日新聞出版)を発売。本書から特別に、歯のケアに対する5つの誤解と正解を紹介する。

*  *  *
【誤解その1】「歯槽膿漏」と「歯周病」は違う病気だ
<正解 歯槽膿漏=進行した歯周病>

高齢の方にはなじみのある「歯槽膿漏(しそうのうろう)」は、実は重度の歯周病のこと。歯周病は、歯を支える骨(歯槽骨/しそうこつ)や歯肉(歯ぐき)などの「歯周組織」が歯周病菌に侵される感染症です。

歯周病は、「歯肉炎」と、歯周組織まで進行した「歯周炎」の2段階に大きく分けられます。歯肉に炎症を起こす「歯肉炎」から始まり、「歯周炎」に進行すると歯肉(歯ぐき)がぷよぷよしたり、膿が出たりするようになります。さらに重症化すれば歯を支える歯槽骨も溶け、やがて歯は抜けてしまいます。進行した歯周病、つまり、歯周炎は、一昔前までは歯槽膿漏と呼ばれていましたが、今では「歯周病」という名称が一般的になっています。

【誤解その2】歯周病は歯肉から膿が出る病気だ
<正解 自覚症状が出る頃には歯周病はかなり進行している>

歯周病はかつて歯槽膿漏と呼ばれていたせいか、漢字どおり「歯肉がぷよぷよして『膿』が出る」といった状態をイメージしている人が多いようです。膿が出るのは確かに歯周病の症状の一つです。ただ、このような症状に気づく頃には、歯周病はかなり進行してしまっています。

初期には、歯肉の腫れやむずがゆさ、歯を磨いたときの出血といった症状が現れますが、いずれも自分では気づきにくいもの。しかし、この段階で治療を始めれば歯を失うことはなく、早く良くなります。

歯周病初期はなかなか自分では気がつくことができないということを知っておきましょう。

【誤解その3】歯肉からの出血はよくあること。放っておけば治る
<正解 歯肉の炎症が原因で歯周病の可能性大。すぐ歯科医院へ!>

「ブラッシングのたびに歯肉から出血するが、放っておけば治るから大丈夫」と軽視している人は多いのではないでしょうか? しかし歯肉からの出血は、歯周病の初期症状である可能性が高いのです。

初期には歯肉が少し腫れる、何となくむずがゆいといった症状が出ていることも多いのですが、出血のようにはっきりした症状ではないので、ほとんどの人は気づきません。歯周病は「サイレント・ディジーズ」と言われ、気づかないうちに歯肉の内側の見えないところで歯を支える骨などがジワジワと破壊される病気です。

患者さん自身が気がつきやすい歯肉からの出血は、歯周病を早期発見・治療するチャンスなのです。

【誤解その4】歯周病予防は中高年になってからやればいい
<正解 小学生でも歯周病になる。早くから歯科医院に通いケアを>

歯周病はかつて歯槽膿漏と呼ばれていた頃のイメージで、「高齢者の病気」と捉えられることも多いようです。

しかし、若者が歯周病にならないわけではありません。厚生労働省が2011年におこなった「歯科疾患実態調査」によると、すでに15.9歳で4.5%、20代は約14%、30代になると5人に1人が歯周病になっています。また歯周病の中でもとくに重症化しやすいタイプの「侵襲性歯周炎」は「若年性歯周炎」ともいわれ、10代20代で発症します。

将来、歯がボロボロになって後悔しないように、若いうちからむし歯予防だけでなく歯周病予防も始めましょう。

【誤解その5】むし歯がないのに歯周病になるわけがない
<正解 むし歯がなくても発症する。むしろむし歯がない人ほど注意を>

世の中には、むし歯がほとんどないという人がいます。Aさん(46歳)もその一人。昔からむし歯がないことが自慢でしたが、あるとき「下の前歯が1本、突然抜けてしまった」と、受診してきました。丈夫そうな歯が並び、一見問題なさそうなのですが、土台部分の骨はかなり溶けていて、抜けた原因が歯周病であることは明らかでした。むし歯も歯周病も、もともとの原因は細菌感染ですが、細菌の種類は異なるため、むし歯になりにくいからといって歯周病にもなりにくいなどということはありません。

若い頃からむし歯に悩む人は比較的自分の歯を気にかける傾向が高いため、歯科医院に定期的に通院し、意外と歯周病になりにくい場合が多いのです。