歯みがきをしているときや硬いものを食べたときに、歯茎から血が出てしまった――。そんな経験のある人は、歯肉炎を疑ったほうがよいだろう。現代人の多くが患っているという歯肉炎だが、その症状とは具体的にはどのようなものがあるのだろうか。

今回は、M.I.H.O.矯正歯科クリニック院長の今村美穂医師に、歯肉炎の症状と歯肉炎になりやすい時期や、生活習慣などについて詳しく解説してもらった。

歯肉炎は歯周炎の前段階

歯肉炎は「歯周炎」と深い関わりがある。歯周炎はかつて「歯槽膿漏(のうろう)」と呼ばれており、歯の周りの骨が溶けて最終的には歯が抜けてしまうという怖い病だ。歯周炎と歯肉炎をまとめて「歯周病」と呼び、歯肉炎は歯周炎の前段階だと今村医師は話す。

「歯周炎を引き起こす細菌が歯槽骨(しそうこつ: あごと歯を結ぶ骨)に入っていくときの最初の症状が歯肉炎です。細菌が歯槽骨まで到達せず、歯肉のところで炎症を起こして腫れている状態になります。それがもう少し深部まで入ってくると、歯周炎になってしまいます」。

悪化して歯周炎になる前に、何とか対処しておきたいもの。自分が歯肉炎かどうかは、どこで判断すべきだろうか。

「歯周炎のように口臭がするなどの症状が出にくいので、知らずに進行してしまっているのが歯肉炎です。歯みがき時に『痛む』『しみる』などの症状がある場合には要注意ですし、出血があれば、ほぼ歯肉炎と考えて問題ないと思います。歯肉に炎症ができることで腫れてしまって、出血するというのが最も大きな特徴です」。

歯茎から血が出てしまえばほぼ間違いないが、歯肉炎はそれ以外には自覚できる症状が少ないことから、いつの間にか病状が進行してしまうところが怖いところ。血が出ていなくても、歯茎が腫れて赤くなっていたり、痛んだりしみたりするようなことがあれば、早めに歯科クリニックなどに行って対策したほうがよさそうだ。では、歯肉炎になりやすい生活習慣や環境はあるのだろうか。

「細菌感染ですから、口腔(こうくう)内に歯周病菌が生息しやすい環境を与えたり、細菌の温床になってしまうような場所があったりすると、そこに棲みついてしまいます。結局は、歯みがきなどで口腔内のよい状態を長い時間持続させることが一番です。また、歯列が良くないと歯周炎の温床となる場所を作りやすいですね」。
歯みがきで温床となる部分を除去することも重要だが、口腔内の乾燥も悪化の要因となるので、口呼吸ではなく鼻呼吸を心がけよう。他に血糖値が上がると歯肉炎が改善しないというデータもあり、間食をなるべく控えることも推奨されている。

思春期や妊娠期は歯肉炎になりやすい

つまるところ、口腔内をいつも清潔に保ち、プラークや歯石などのない状態をなるべく長く保つことが何よりの予防になるわけだ。だが今村医師は、特に歯肉炎になりやすい時期があると解説する。それは思春期と妊娠期だ。

「思春期や妊娠期はホルモンのバランスが変わって新陳代謝が激しくなり、細胞の活性が盛んにおこなわれます。そのような時期は、歯肉炎の原因となる菌に過剰に反応してしまいます。また、妊娠初期のつわりなどで吐くこともあるでしょうが、嘔吐(おうと)で口の中が酸性になって虫歯のリスクも上がってしまいます」。

つわりがつらくて歯みがきを簡単にすませてしまい、いつの間にか重度の歯周炎に移行してしまうケースも多くあるという。X線フィルム自動現像機

さらに、妊娠期についてはおなかの中にいる子どもへの影響も懸念されている。歯肉炎が悪化した歯周炎を持つ患者における早産・低体重出産の出産リスクは、通常時の約3.6倍にもなるというデータや、歯周病菌が母体を通じて胎児にも感染してしまうという報告もある。どんなにつわりがつらくても、子どものためにはしっかり口腔内をきれいにしておきたいところだ。

「妊活のお気持ちがあるのであれば、その時点で口腔内の状態をよくしておくことが、お母さんの心構えのひとつだと思います。歯周病菌が一度でも口腔内に着床してしまうと、完治することはありません。お子さんへのリスクを考えると、妊活の前に口腔内のよい状況を維持できるように改善していくことが大切です」。

「ちょっと血が出たくらいだから」と軽く考えている人も少なくない歯肉炎。ところがそれを放置していると、水面下で静かに歯周炎へと進行して取り返しのつかない事態になりかねない。毎日の歯みがきで自分の口の中をしっかりと把握し、歯や歯茎からのサインを見逃さずに対処することが歯肉炎を寄せ付けない最善の方法といえるだろう。