古代歯科医療
古代歯科医療
パキスタン西部バルチスタン州にある約9000年前の埋葬跡から、歯の治療を受けたとみられる頭蓋骨が出土した。奥歯などに石製のきりで開けたと思われる穴があるとの報告を、米仏などの共同チームが英科学誌ネイチャーの最新号に発表した米カンザス大の人類学者、デビッド・フレイヤー教授らによると、紀元前7000-5500年に埋葬されたとみられる男女9人の頭蓋骨に、歯科ユニット深さ最大3.5ミリの穴が開いた歯11本が見つかった。同じ場所から、きりの刃のような石器も出土している。研究チームがこの石器を使い、人間の抜けた歯を削ってみたところ、1分以内に穴を開けることができたというフレイヤー教授は「出土した歯の写真を見たかかりつけの歯科医は、すばらしい技術だと感心していた」と語る。きりによる穴開けは、この地域に伝わるビーズ細工から発達した技術とみられ、「装飾や魔よけの意味があったのでは」との意見もある。しかしチームでは、「穴は見えにくい奥歯にあり、装飾的な要素は考えにくい」と指摘。また、11本の歯のうち4本には虫歯の兆候がみられ、治療のために削ったとみるのが自然だと、フレイヤー教授らは主張する。穴の中は空洞のままだが、当初は詰め物が入っていた可能性もあるという歯に穴を開ける風習は約1500年間続いたとみられるが、その後はふっつりと途絶えている。ウォーターピック当時、麻酔の技術はまだ存在しなかったはず。フレイヤー教授らは「同じ人が2度、3度と治療を受けた跡もみられる。本人にとってはかなりの苦痛だったに違いない」と、遠い昔の「患者」たちに同情の意を示している。