歯科医に聞く。「歯科恐怖症」とは?
「子どものころに歯医者で痛い思いをしてから、歯医者が怖くてなかなか治療に行けない」。そんなトラウマを抱える人が増えていると言います。歯学博士で江上歯科(大阪市北区)院長の江上一郎先生にお話を伺いました。
■治療中に大出血、邪険に扱われた……
――大人になっても、怖くて歯医者に行けない人が増えているというのは本当でしょうか。
江上先生 はい、とても増えています。原因の多くは、歯医者での経験に由来するようです。20代、30代の患者さんの例を紹介しますと、歯科機器通販
「子どものときに、泣いたからか頭を押さえつけられ、ぎんぎん削られた音と痛みの恐怖を忘れられない」(31歳/男性/公務員)、
「詰め物がのどに落ちたのに気付かれず、息を詰めて怖い思いをしたのに謝罪もなかった。それ以来、口を開けることができない」(36歳/女性/自営)、
「歯を削る機械で舌を切られ、大出血して救急車で運ばれたショックをひきずっている」(26歳/女性/大学院生)、
「虫歯の治療中、看護師さんが扱う器具が歯ぐきにあたって出血しているのに、『あなたの歯ぐきの形が悪い』と医師に言われた。別の歯医者で治療しようとしても吐いてしまう」(28歳/男性/会社員)
など、主に治療中の事故、激痛、出血などの経験と、歯科医に邪険に扱われたと感じたことによる心因があります。
これらのトラウマで長い間歯医者に行くことができず、虫歯を放置したまま悪化し、重症の虫歯が10本もあった患者さんもいらっしゃいます。
この症状を「歯科恐怖症」と言います。また、治療中に、貧血や吐き気などの発作的な症状を起こすことを「デンタルショック」と呼んでいます。
■子どもや高齢者に対応している歯科医を探す
――「歯科恐怖症に対応していて、通いやすい歯科医」は、どのように探せばよいのでしょうか。
江上先生 専門的に治療する機関として、「心療歯科」や「口腔(こうくう)心療科」があります。患者さんの心理状態を見つめながら診察していく科で、最近、注目されています。インターネットなどで情報を得てください。ただ、大学病院や総合病院に多く、全国のどこにでもあるというわけではないのが現状です。
――近所で歯科医院を探す方法はありますか。
江上先生 勇気を出して、必ずあらかじめ、「歯科恐怖症の症状があるが、対応してもらえるかどうか」と問い合わせをしてください。初めての治療の際には、過去の経緯について相談に乗ってくれるか、配慮してくれそうかを確認し、また、「どのように治療していくのか」を尋ねてください。
次に、訪問して、自分に合う歯科医がいるか、クリニックの雰囲気はどうかを観察するようにしましょう。歯科医との相性は自分でしか確かめられないものです。
また、「子どもや高齢者の歯科診療に積極的な歯科医院」を探すのも一つの方法です。ホームページやタウンページ(電話帳)で、その特徴を打ち出している歯科医院を当たりましょう。
子どもや高齢者の診療に慣れている医師なら、対応も治療法もソフトだと予想できます。
ただ、自分が思うような治療が受けられない場合もあるので、治療を開始するまでに、よく話を聞くようにしましょう。
――どのような治療になるのでしょうか。
江上先生 ゆっくり少しずつ、話をしながら、無理のない範囲でリラックスをしていただきながら治療を進めますので、時間と通院の回数がかかることがあります。また、症状によりますが、できるだけ緊張をほぐすために、深呼吸やストレッチ、マッサージなどを含めて治療することもあります。
最終的には、歯の治療はもちろんですが、「心理的に、今後の歯の治療に自信を持っていただく」ということを目的とします。
――ありがとうございました。
歯は頭や耳に近いこともあって、歯科恐怖症ではなくても、あのギンギン削る音、痛みはつらい記憶として残るでしょう。その心理を理解してくれる医師に出会いたいものです。