むし歯が歯の表層に限られる場合は、削らず再石灰化を期待します。むし歯が大きくなると歯を削り、詰め物やかぶせものをつける治療を行います。むし歯がさらに進行して歯髄(しずい)に達すると、歯髄を除去(抜髄(ばつずい))する必要があります。その場合の多くは土台をたててかぶせ物をする治療が必要になります。
1. 削る必要のないむし歯の場合
むし歯(う蝕・う蝕症)は、口の中にいる細菌が酸を出して歯を溶かす現象です。この現象を脱灰と呼んでいます。
むし歯の原因となる菌はミュータンスレンサ球菌と乳酸桿菌がその代表的な菌とされています。ともに砂糖から主として乳酸をつくる能力を持った菌です。またミュータンスレンサ球菌は水に溶けない歯垢(プラーク)を作る能力を持っています。このように細菌によって作られた酸によって歯が溶けてゆきますが、初期の段階では溶けた部分が元にもどることがわかってきました。この現象を再石灰化とよんでいます。
歯が溶け始めるとき、歯の表面ではなく歯の中から溶けてゆきます。この溶けた部分を表層下脱灰層と言います。歯の表面にあるエナメル質は主にカルシウムとリン酸からできていて、このカルシウムが酸によって溶け出します。しかし唾液中にはカルシウムがあるので、そのカルシウムが表層下脱灰層に入り込んで溶けた部分を埋めてゆきます。このように歯は脱灰と再石灰化を常に繰り返しています。
2. 削って詰め物をする必要がある小さなむし歯の場合
小さなむし歯
砂糖を頻回に摂取したり、歯を磨かないと脱灰が進みます。また表層下脱灰層はある程度以上大きくなるとウォーターピック、表面のエナメル質が割れてしまい大きな穴になってしまいます【図1】。
この状態になるともう治ることはありません。大きな穴があいてしまった後は従来の削って詰める治療法になります。むし歯がエナメル質や象牙質までの範囲のときはむし歯の部分を削り取り、その部分にレジンと呼ばれる合成樹脂を詰めます。
レジンは歯とほぼ同じ色ですので、特に前歯で審美性が要求される場合や、むし歯の穴が小さいときには、レジンが多く用いられます。また特殊な光を当てることによってレジンが固まりますので、口の中で直接レジンを詰めて固まらせることができます。つまり型を取るなどの工程が必要ないので、一般的には一回の治療で終了します。
3. 詰め物やかぶせ物を口の外で作る大きなむし歯の場合
むし歯の範囲がある程度以上大きくなってしまうと、その穴に直接詰めることが難しくなってしまいます。このような場合は、型をとってその型に石膏を流し込んで歯の模型を作製します。この模型を使って金属などの詰め物やかぶせ物を作り、それを歯に詰めます。
4. むし歯の範囲が歯髄まで到達してしまった大きなむし歯の場合
むし歯の範囲が歯髄まで到達してしまった場合
図2: 大きなむし歯
むし歯の範囲が歯髄まで到達してしまった場合【図2】や細菌が歯髄に感染してしまった場合は、歯髄を除去(抜髄)する必要があります。抜髄は一般的に「神経を抜く」と表現されることがあります。
歯髄の治療は根管治療とよび、歯髄だけではなく歯髄の周りにある感染した象牙質も含めてリーマー・ファイルと呼ばれる針のような器具で歯髄の入っている穴を削り取ってゆきます。その穴にゴムや水酸化カルシウムを含む材料を詰めて、再び感染が起こらないようにします。
根管治療
図3: 根管治療
一般的にはその歯髄の入っていた穴に金属やレジンで土台をたてて、その土台の上にかぶせ物をするという治療【図3】が行われます。土台をたてることを「差し歯にする」と表現することがあります。つまり「差し歯」という場合には、歯を抜くことなく、自分の歯を利用してかぶせ物をするわけです。
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