九大など、誤飲しても問題ない虫歯・歯周病予防口腔用殺菌剤を発表
九州大学(九大)と優しい研究所は12月19日、鹿児島大学、国立長寿医療研究センターとの共同研究により、植物性乳酸菌が作る天然の抗菌ペプチド(タンパク質)である「ナイシンA」を抽出した「高純度ナイシン」と「梅エキス」を独自の配合比で組み合わせた天然抗菌剤「ネオナイシン」が、口腔内の虫歯菌、歯周病菌を減少させることを確認したと共同で発表した。
成果は、九大大学院 農学研究院 生命機能科学部門の園元謙二教授らと、優しい研究所、鹿児島大大学院 医歯学総合研究科の小松澤均教授、同・松尾美樹助教、国立長寿医療研究センター口腔疾患研究部の松下健二部長(九大大学院 歯学研究院歯学部門 口腔保健推進学講座 客員教授)らの共同研究グループによるものだ。
虫歯、歯周病は共に細菌による感染症であり、日本人で虫歯を患っている人は全人口の90%、歯周病を患っている人は70%といわれている。また口腔内細菌の増加は、高齢者を中心に1日に300人の死亡原因となっている「誤嚥性肺炎」のリスク要因で大きな問題となっているところだ。
なお、誤嚥性肺炎は細菌が唾液や胃液と共に肺に流れ込んで生じ(いわゆるむせる状態)、高齢者に多く発症し、再発を繰り返す特徴がある。再発を繰り返すと耐性菌が発生して抗生物質治療に抵抗性を持つため、多くの高齢者が死亡する原因になっているのだ。
しかし口腔用殺菌剤は、口に入れるものとして高齢者や重度心身障がい者、幼児などの誤飲が危惧されている。その一方で安全性は高いが、「プロバイオティクス(人体によい影響を与える微生物、またはそれらを含む食品など)乳酸菌」や植物エキスは、原因菌を直接、瞬時に殺菌するような大きな効果は期待できなかった。今回の開発の背景には、近年の消費者の安全嗜好に応える、飲み込んでも安心で早期に効果の期待できる口腔ケア剤への消費者ニーズがあったのである。
乳酸菌研究で知られる九大の園元教授が発見した、おからの中にいる乳酸菌が生産するナイシンAを、今回、10年間の研究を経てバイオベンチャーが高純度に抽出する技術を開発した。
ナイシンAは、乳酸菌(Lactococcus lactis)が作る抗菌性ペプチド(タンパク質)で34個のアミノ酸からなる。ナイシンはおから以外にも、伝統的な発酵食品であるヨーグルト、チーズ、ぬか漬けなどにも自然に入っており、ヒトが古来より食してきたものだ。
病原性の黄色ブドウ球菌や虫歯菌などのグラム陽性菌に対して強い抗菌効果を示すことが知られているが、大腸菌や歯周病原因菌などのグラム陰性菌に対しての抗菌効果がないといった弱点を持っている。
そこで、このナイシンの弱点を補完するため、さまざまな天然物質の選定試験が実施され、その結果として大腸菌に対する梅エキスによるナイシンとの相乗効果が見出され、高純度ナイシンと梅エキスを独自の配合比で組み合わせた天然抗菌剤のネオナイシンが開発されたというわけだ。
従来のナイシンAは低純度で不純物・塩分が多く、味への影響が懸念されるため、口腔用途には適していなかった。しかし、新分離精製技術を採用することにより、ナイシンAの高純度化を実現し、「ネオナイシン」に使用されたのである。
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また、さまざまな天然物質の中から選定した梅エキスは、微量では抗菌効果を示さないが、ナイシンAと組み合わせることにより、ナイシンAがグラム陰性菌に対して抗菌効果を示すようになるという仕組みだ。この独自の配合比により、ナイシンAの抗菌活性の補完と味への影響の少ない口腔用天然抗菌剤を共に実現した次第だ。
ネオナイシンの特徴をまとめると、(1)虫歯菌および歯周病菌に対する優れた抗菌性(孔を形成し殺菌)、(2)天然由来としての高い安全性、(3)優れた生分解性を有し、分解後は安全なアミノ酸(環境・ヒトに優しい)、(4)独自の配合により、味への影響が少ない(口腔用途に最適)となる。
ネオナイシンの口腔内細菌に対する有効試験では、口腔微生物学研究で知られる鹿児島大の小松澤均教授、同・松尾美樹助教、高齢者の口腔感染症で知られる国立長寿医療研究センターの松下部長らの協力により試験が進められた結果、虫歯原因菌である「ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)」と歯周病原因菌である「アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(Aggregatibacter actinomycetemcomitans)」の口腔内病原菌に対して、抗菌効果が認められた。
ネオナイシンは、口腔内病原菌を減少させる製剤として、誤飲で摂取した場合でも体内消化酵素で速やかに分解され安心である点に大きな優位性を持つ。これは、環境中に排出された場合も同様で、土壌中でアミノ酸にまで生分解されるため、生物生態系の1つの栄養物質として循環し、環境に調和した優しい抗菌剤といえるというわけだ。
画像1。ストレプトコッカス・ミュータンス(グラム陽性菌)に対する天然抗菌剤(抗菌ハーブ、抗菌精油、ナイシンA)の抗菌活性
画像2。大腸菌(グラム陰性菌)に対する天然抗菌剤(ネオナイシン)の抗菌活性
このネオナイシンを用いた、高齢者・重度心身障がい者のための口腔ケア製品は、2013年に発売が予定されている。
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