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歯科用ハンドピースの滅菌について

歯科用ハンドピースの滅菌

当院の衛生管理についてのページでも触れていますが、当院では歯科用ハンドピースを使用毎にオートクレーブで滅菌しています。少し古い調査ですが平成13年の静岡県立大学短期大学部の調査(特別研究報告書-32 歯科臨床現場における感染予防対策についての実態調査/嶋智美・藤原愛子)ではハンドピースを滅菌している歯科医院29.2%、滅菌していない歯科医院が70.8%だったそうです。現在平成23年ですが、私の実感からすると随分滅菌している歯科医院が多いデータだな、という印象です。
 
原因は、この調査では滅菌の頻度までは調査していないことと(1日に1回とか週に1回なんていうのも含まれている可能性が高いこと)、調査方法(実地調査ではなく郵送によるアンケート方式)に問題があると思われます。
 
私の実感では患者様毎にハンドピースを滅菌使用している歯科医院は日本の全歯科医院中の10%未満、おそらく5%程度だと思います。
 
 
診療台には治療前に削る器械が一つも付いていません。使用したハンドピースは滅菌に回しますから、1人の患者様の治療が終わって片づけをするとこういう状態になります。次ぎの患者様の治療時には必要なハンドピースだけ装着して使います。こういう状態でなければいけないわけではありませんが、使用毎に滅菌していると必然的にこういう坊主というか、なんだか寂しい風景になってしまいます。
 
 
フル装備の状態です。ハンドピースが真ん中に3本装着されています。いかにも歯科医院っぽい雰囲気になります。
 
 
ハンドピースは診療台横のサイドテーブルの上に置いておいて、必要に応じて使用します。ハンドピース類は写真の下方にあります。なお、上の方に移っているペンチのようなものを総称してプライヤーといいます。矯正用の針金を曲げたり切ったりする道具です。これらも滅菌後、種類毎に整理して並べておきます。
 
ちなみに、日本ではハンドピースの滅菌は法律で義務付けられているわけではありません。日本歯科医師会が平成九年三月に作成した「一般歯科診療HIV感染予防対策Q&A」では、歯科用ハンドピース等の使用後の消毒・滅菌についてはオートクレーブまたはEOGによる滅菌を原則とする一方、薬液消毒と十秒以上の空回転をすることと記載されていますので、これをガイドラインとするならば使用後にアルコールワッテで本体を拭った後、十秒間空回転すれば問題ないと解釈することも可能です。ただ、アメリカではハンドピースの滅菌・消毒は義務付けられています。歯面清掃用ハンドピース (豪華版2世代)以下に、デンタルダイヤモンド1997年9月号の記事から歯科用ハンドピースの構造上の特徴とアメリカでのハンドピースの取り扱い状況についての記事を引用したいと思います。
~~~エアータービンは、空気や水の噴出を止めるとこれらが逆流し、その際口腔内の唾液や血液あるいは削りかすを吸い込むことが指摘されている。感染予防ということで停止時に生じるヘッド内負圧による血液、唾液、切削屑などのタービン本体への侵入を防止するクリーンヘッドシステム、またカップリング内に内蔵され血液・唾液などが水スプレー回路に逆流することを防止する逆止弁機構などが設置されるようになっている。しかし一番問題となる点はエアータービンヘッドの使用後の滅菌・消毒をどのように行うかである。日本では法律的にエアータービンヘッドの患者ごとの滅菌・消毒は要求されていないが、アメリカではキンバリー事件(*歯科診療所でのHIVの院内感染事故)以後、各州ごとに切削器具を含め、滅菌・消毒が義務付けられており、もし実態調査時に滅菌・消毒していないと開業停止となる。このため患者ごとにエアータービンヘッドは滅菌・消毒してから使用しなければならない。(日本大学歯学部 補綴学教室 五十嵐孝義先生)~~~
 
と、これは1997年の記事です。ちなみに、おそらく1990年代中頃というのは日本では歯科医師のゴム手袋着用がようやく定着しはじめた頃だと思います。当時私は大学生で臨床実習中でした。ゴム手袋の着用を強く推奨されてはいましたが、義務付けれられてはいませんでした。ほとんどの学生、および若い教官は着用していましたが、年配の先生方の中には長年に渡り素手で治療してきたこともあり、ゴム手袋を着用すると思うように治療ができないとおっしゃられる先生もいる状況でしたから義務付けはちょっと困難だったのでしょう。また、当時の歯科雑誌に掲載された患者様の投稿の中には「担当の歯科医師がゴム手袋をして私の治療をした。私の口はそんなに汚いのかと思い、不愉快だった」なんていうご意見もあるような時代でした。日本ではゴム手袋すら着用していない時代にアメリカではこのような状況ですから随分と違うものです。
 
2011年現在、日本の状況はといえばさすがにゴム手袋はほとんどの歯科医師が着用するようになりましたが、医療器具の滅菌に関しては残念ながらほとんど変化していません。相変わらずハンドピースを使用毎に滅菌している歯科医院はごく少数派です。義務化されていないのですから当然の成り行きではありますが・・・。
 
ただ、どうもこれでは気分が悪いというか、少なくとも個人的にはいただけない。なぜ気分が悪いかと言うと、ハンドピースの構造を知っているからです。上記の記事内にもありますが、ハンドピースはその構造上、回転を終了する時に僅かではありますが口腔内の切削粉や唾液を吸い込んでしまいます。10秒空回転したら、吸い込んだ汚物を全て排出して除去できるのか?この「?」が気分悪いのです。
 
 
これが歯科用ハンドピースの拡大図です。こうして見ると小さな穴がたくさんあるのがよくわかります。治療後、切削を終えるとこれらの穴から口腔内の切削粉や唾液、血液などがハンドピース内部に逆流するのです。
ところで滅菌が徹底されない理由が何かといえば、義務ではないことと、滅菌にはコストがかかるからです。
仮にハンドピースの患者様毎の使用時間を20分だとすると、単純計算で滅菌しない場合には1時間に3回転できますが、滅菌には1時間程度時間がかかりますから1時間に1回転しかできません(現実的にはある程度の本数をまとめて滅菌するのでもっと効率は落ちますが)。そうすると滅菌に回っていて使えない時間帯を補うためにハンドピースの本数を増やす必要があります。
また、滅菌器そのものの台数も増やす必要もあります。また、頻繁な滅菌はハンドピース内部部品の耐久性を低下させますからハンドピースの寿命が短くなります。
さらに、実際はこれが最もコストがかかるのですが、人件費です。滅菌するにも人手が必要ですからハンドピースの滅菌を頻繁におこなうとなると滅菌に従事するスタッフの人件費が新たに発生することになります。
とはいえ、義務化されてしまえばあっという間に全ての歯科医院が滅菌をするようになるでしょうが、今のところ日本ではハンドピースの滅菌がなかなか普及していないのが実情です。

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